プレインズウォーカー年代記

灯争大戦:ニコル・ボーラスによるプレインズウォーカーの灯強奪儀式

Tags: 灯争大戦, ニコル・ボーラス, プレインズウォーカー, ラヴニカ, MTGストーリー

灯争大戦における究極の企み:プレインズウォーカーの灯強奪儀式

マジック:ザ・ギャザリングの物語において、エルドラージの脅威が去った後の多元宇宙で最大の危機として立ちはだかったのが、古のドラゴン・プレインズウォーカー、ニコル・ボーラスでした。彼の長大な歴史の中でも特に狡猾で破滅的な計画が結実したのが、次元全体を巻き込んだ「灯争大戦」です。この大戦の中心には、多元宇宙に存在する全てのプレインズウォーカーの力の源泉たる「プレインズウォーカーの灯」を根こそぎ奪い取る、という恐るべき儀式が存在しました。

この記事では、灯争大戦のクライマックスの一つである、ニコル・ボーラスによるプレインズウォーカーの灯強奪儀式について、その背景、詳細、そして多元宇宙に与えた影響を掘り下げていきます。

儀式の背景と目的

ニコル・ボーラスの最終的な目的は、多元宇宙の支配、そして絶対的な神となることでした。しかし、彼にとって最大の障壁となっていたのが、かつてファイレクシアによってアージェンタム次元で実行され、ボーラス自身もその標的となった「永い苦悶」と呼ばれる現象でした。これは、強力なプレインズウォーカーの灯が持つ固有の脆弱性であり、最終的には死に至るものでした。

ボーラスは、この永い苦悶を克服し、自らの灯を永続的な絶対的力へと昇華させる方法を模索していました。その答えが、他のプレインズウォーカーから灯を奪い、それらを自らのものとすることで、自身の存在そのものを再構築し、神となるという儀式でした。彼はこの計画のために、次元「アモンケット」で死後の世界を利用して不死身の軍勢「永遠衆」を建造し、自らの拠点として利用しました。

儀式の舞台としてボーラスが選んだのは、膨大な魔力と次元間の通路が集中する次元「ラヴニカ」でした。ラヴニカは十のギルドがそれぞれの役割を持ち、次元そのものが一つの巨大な都市として機能しています。ボーラスは、この次元の持つ複雑な魔力網と、無数の次元間ポータルが存在する特性を利用して、次元を閉鎖し、そこに集まったプレインズウォーカーたちから灯を強制的に吸い上げる仕組みを構築しました。

儀式の遂行と阻止への試み

灯争大戦は、ボーラスが永遠衆を引き連れてラヴニカに侵攻したことから勃発しました。彼は事前に様々な策略を巡らせ、アングラス、テフェリー、ヴラスカといった一部のプレインズウォーカーを自らの側に引き入れ、他のプレインズウォーカーたちをラヴニカにおびき寄せていました。さらに、ゲートウォッチとその盟友たちもボーラスを追ってラヴニカに集結しました。

ボーラスは、ラヴニカの中心部にある「イゼット組」の「シミック本部」の奥深くに儀式の装置を設置しました。これは、ボーラスがアモンケットで培った技術と、ラヴニカの次元の持つ力を組み合わせて作られたものでした。次元が閉鎖された状態で、装置は全てのプレインズウォーカーから灯を吸い上げ始めました。灯を奪われたプレインズウォーカーは力を失い、多くが命を落とす危険に晒されました。この光景は、『灯争大戦』セットのカードやアートワークに衝撃的に描かれています。例えば、《時を解す者、テフェリー》のような強大なプレインズウォーカーですら、この装置の前に無力化されかけました。

ゲートウォッチとその仲間たちは、この絶望的な状況に立ち向かいました。ジェイス・ベレレンは、ボーラスの精神世界に入り込み、その思考を妨害する試みを行いました。テフェリーは自身の時間魔術を用いて儀式の進行を遅らせようとしました。ラル・ザレックは、イゼット組の知識を利用して儀式の装置そのものに干渉する道を模索しました。そして、次元を閉鎖していた「不滅の太陽」を破壊するために、ギデオン・ジュラやチャンドラ・ナラールが犠牲的な行動をとりました。

最終的に、カーンは次元間に存在するボーラスの霊気的な分身を追跡し、その核となる部分を破壊することで儀式を物理的に停止させました。そして、ジェイスとニッサ・レヴェイン、そして仲間の協力により、ニコル・ボーラスは自身のプレインズウォーカーの灯を失い、古の多次元牢獄「アルカヴォス」へと幽閉されました。こうして、ボーラスによる多元宇宙を揺るがす灯強奪の企みは阻止されました。

儀式阻止の余波と物語への影響

ニコル・ボーラスによるプレインズウォーカーの灯強奪儀式は阻止されたものの、その影響は甚大でした。多くのプレインズウォーカーがラヴニカで命を落とし、生き残った者たちの中にも、この経験が深い傷跡を残しました。儀式そのものは失敗しましたが、ボーラスは最後まで多元宇宙に混乱と破壊をもたらし、特に彼が作り出した永遠衆はラヴニカに残り、新たな脅威となりました。

また、この出来事は多元宇宙全体、特にラヴニカ次元を弱体化させました。ボーラスがラヴニカを儀式の舞台に選んだことは、次元の構造自体に歪みを生じさせ、その後の次元間移動や魔力の流れに影響を与えた可能性も示唆されています。

何より、この大戦はプレインズウォーカーという存在の脆弱性を露呈させました。絶対的な力と思われていたプレインズウォーカーの灯も、特定の条件下では奪われる可能性があることが明らかになったのです。これは、その後の物語において、プレインズウォーカーたちの行動原理や多元宇宙規模の脅威に対する認識を変化させる契機となりました。特に、ファイレクシアによる多元宇宙侵攻という、さらに大規模な脅威が顕在化するにあたり、灯争大戦の経験はプレインズウォーカーたちにとって重要な教訓となったと言えます。

灯争大戦とその中心にあった灯強奪儀式は、ニコル・ボーラスという一つの時代のヴィランの終焉を描くと同時に、多元宇宙に新たな課題と脅威を残した、MTGストーリーにおける極めて重要な出来事でした。この出来事を理解することは、その後の物語の展開を追う上で不可欠となります。