テゼレットの軌跡:カラデシュの鍛冶屋からファイレクシアの幹部へ
導入:カラデシュの孤児、野望を胸に多元宇宙へ
テゼレットは、マジック:ザ・ギャザリングの物語において、野心と欺瞞、そして金属への偏執によってその名を刻んだプレインズウォーカーです。カラデシュ次元の貧しい地区で生まれ育った彼は、その卓越した技量と冷徹な知性を武器に、自らの境遇を打ち破ることを決意します。プレインズウォーカーの灯が発現して以来、彼は多元宇宙を渡り歩き、権力と知識を追求し続けましたが、その道程は常に暗く、多くのプレインズウォーカーや次元に災いをもたらしました。本記事では、テゼレットが歩んだ特異な軌跡を、カラデシュでの始まりからファイレクシアにおける役割に至るまで、時系列に沿って追っていきます。
カラデシュでの出自と最初の旅
テゼレットはカラデシュ次元のギルドパクト管区で、見捨てられた孤児として育ちました。彼は幼い頃から金属細工と発明に非凡な才能を示し、特にエーテリウムという金属の扱いにおいて右に出る者はいませんでした。しかし、彼の野心はカラデシュの限界を超えていました。アラーラ次元の断片の一つであるエスパーでエーテリウムが豊富に産出されることを知った彼は、そこに活路を見出そうとします。
アラーラ次元での暗躍とボーラスとの遭遇
プレインズウォーカーの灯を点したテゼレットはエスパーへと渡り、その技術力を駆使して頭角を現します。彼はエスパーの評議会に入り込み、大きな影響力を持つようになりました。この時期、彼は同じくエスパーを訪れていたリリアナ・ヴェスと出会い、短い間ながら協力関係を結びます。
しかし、テゼレットの野望はさらに大きくなりました。彼は強力なアーティファクトである「グレートワームの骨」を巡る争いに巻き込まれ、やがて古のドラゴン・プレインズウォーカー、ニコル・ボーラスの注意を引くことになります。テゼレットはボーラスによって敗北し、彼の意志を捻じ曲げられ、隷属の証としてエーテリウムでできた金属板を胸に埋め込まれました。これ以降、テゼレットの行動はボーラスの計画に深く組み込まれていくことになります。
ミラディンの傷跡:新ファイレクシアへの関与
ニコル・ボーラスの指示を受けたテゼレットは、ミラディン次元へと送り込まれます。そこは、ファイレクシアの侵攻を受けて「新ファイレクシア」へと変貌を遂げつつある次元でした。テゼレットは新ファイレクシアの幹部、特に大母たるエリシュ・ノーンに取り入ることで、その内部構造を把握しようとします。彼はミラディンの生き残りである銀のゴーレム、カーンと接触し、カーンを捕らえることに成功しますが、これはボーラスの別の計画の一部でした。テゼレットはこの次元でファイレクシアの技術と哲学に触れ、自身の身体をより金属化させることに執着を強めていきます。この時期の出来事は、セット『ミラディンの傷跡』、『ミラディン包囲戦』、『新たなるファイレクシア』で描かれています。
その後の動向とカラデシュへの帰還
ミラディンを離れた後も、テゼレットはボーラスの駒として多元宇宙の各地で暗躍を続けました。異界月での出来事にも彼の関与が示唆されています。そして物語の舞台は彼の故郷であるカラデシュへと戻ります。
セット『カラデシュ』および『霊気紛争』では、テゼレットが改革派のリーダーであるピーマ・ラールを操り、発明博覧会を通じて壮大な陰謀を進めている様子が描かれました。彼はボーラスのために、次元全体を動かす強力なアーティファクトである「次元の橋」を完成させようとしていました。彼はこの計画の遂行中にジェイス・ベレレンやチャンドラ・ナラーといったゲートウォッチのメンバーと対立し、最終的にボーラスの介入によって辛くもカラデシュから脱出しました。
灯争大戦:ラヴニカでの最終計画
ニコル・ボーラスが多元宇宙のプレインズウォーカーの灯を全て集めようとした『灯争大戦』において、テゼレットはラヴニカ次元で重要な役割を果たしました。彼は「次元の橋」を用いてボーラスの機体化軍団をラヴニカに送り込む手助けをしました。ボーラスの計画が進行する中で、テゼレットはラヴニカのギルド、特にイゼット団の施設を掌握しようと動きます。彼はニヴ=ミゼットの復活にも関与し、ラヴニカの英雄たちがボーラスに対抗するための重要な要素を結果的に提供してしまいました。灯争大戦の終盤、ボーラスが敗北し、投獄された後、テゼレットは再びボーラスの支配から解放されました。
ニューカペナと新ファイレクシアでの活動
ボーラスの束縛から解放されたテゼレットは、自らの野望を再開させます。セット『ニューカペナの街角』では、彼はヴィトや他の悪党たちと共謀し、ニューカペナのグリフィン戦車製造に関与していました。しかし、ここでの彼の本当の目的は、自身の身体のさらなる金属化と強化、そして新ファイレクシアとの繋がりを深めることでした。
彼は最終的に新ファイレクシアへと渡り、その内部で急速に地位を確立していきました。彼は自身の身体を完全に金属化させるという長年の望みを叶え、完成化を遂げました。彼は新ファイレクシアの指導者たちの内紛を利用し、特にエリシュ・ノーンに接近しました。機械兵団の進軍においては、次元の橋を再起動し、新ファイレクシア軍の多元宇宙への侵攻を可能にするという、極めて重要な役割を担いました。
結び:野望の果て
テゼレットの軌跡は、一人の鍛冶屋が自らの才能と野心によって、そしてニコル・ボーラスやファイレクシアという巨大な力との関わりの中で、多元宇宙全体を揺るがす存在へと変貌していった物語です。彼は常に自己の利益と権力を追求し、そのために手段を選びませんでした。アラーラ、ミラディン、カラデシュ、ラヴニカ、そして新ファイレクシアと、彼が関わった次元は常に波乱に見舞われました。
特にファイレクシアにおける彼の役割は、ボーラスの計画の破綻後も彼の影響力が衰えなかったことを示しています。彼は新ファイレクシアの技術を貪欲に吸収し、自身の身体を完全なる金属へと変えました。機械兵団の進軍における彼の行動は、多元宇宙全体を未曽有の危機に陥れる直接的な原因の一つとなりました。テゼレットの物語は、野心と力の追求が、いかに個人を歪め、そして世界に災いをもたらすかを示す一例と言えるでしょう。彼の最終的な運命は明確には語られていませんが、その存在がMTG世界の歴史に深く刻まれたことは間違いありません。