ケルドの剣士、ラール・ザレックの軌跡:ラヴニカの忠誠者から完成化まで
ケルドの剣士、ラール・ザレックの軌跡
ラール・ザレックは、マジック:ザ・ギャザリングの多元宇宙におけるプレインズウォーカーの一人であり、特にギルドを中心とした都市次元、ラヴニカにおいて重要な役割を果たしてきました。彼は元々武勇の民として知られる次元、ケルドの出身であり、「ケルドの剣士」の異名を持ちます。彼の物語は、ラヴニカでの活動、ディミーア・ギルドへの忠誠、そして後にファイレクシアによって完成化されるという劇的な変遷を含んでいます。本稿では、ラール・ザレックの軌跡を時系列に沿って詳細に追っていきます。
ケルドでの出自とラヴニカへの移住
ラール・ザレックは強靭な戦士が多く存在する次元、ケルドで生まれ育ちました。しかし、彼の物語の主要な舞台は、彼の故郷から遠く離れた次元、ラヴニカです。何らかの理由で故郷を離れた彼は、ラヴニカへと渡り、そこで新たな生活を始めます。ラヴニカはその広大な都市景観と、それぞれが固有の役割と文化を持つ十のギルドによって特徴づけられる次元です。ラールは自身の能力と野心を活かす場として、ラヴニカを選んだと考えられます。
ディミーア・ギルドへの加入と工作員としての活動
ラヴニカに定着したラールは、秘匿、謀略、情報収集を司るディミーア・ギルドに加入します。ディミーアは他のギルドからはその存在すら疑われるほど隠密に行動するギルドであり、その構成員は諜報員や暗殺者、あるいは影に潜む工作員です。ラールはその中で頭角を現し、ギルドマスターであるテイサ・カルロフの腹心の一人となります。彼は自身の持つ炎の魔術と戦闘能力に加え、情報戦や策略においても才能を発揮し、ディミーア・ギルドの利益のために暗躍しました。
この時期、ラールはラヴニカにおいて他の重要な人物たち、特にジェイス・ベレレンと接点を持つようになります。ジェイスはギルドパクトの生ける証、現職のギルドマスターであり、多くのギルドの争いに巻き込まれていました。ラールはディミーアの一員としてジェイスに近づき、時に協力し、時に利用しようと試みます。彼らの関係は複雑で、相互不信と利用価値の見極めが常に存在していました。この様子は、『ラヴニカへの回帰』ブロックの物語などで描かれています。
プレインズウォーカーとしての覚醒とその後の旅
ラール・ザレックがいつ、どのようにプレインズウォーカーの灯を点火したのかは明確ではありませんが、ラヴニカでの活動中に彼は次元を渡る能力を得ました。プレインズウォーカーとなった後も、彼の主な活動拠点はラヴニカであり続け、ディミーア・ギルドへの忠誠は揺るぎませんでした。彼はギルドマスターの指示に従い、あるいは自身の野心のために、多元宇宙の他の次元を訪れることもありましたが、その根底には常にラヴニカとディミーアへの帰属意識がありました。
灯争大戦における役割
ラール・ザレックが再び主要な物語に深く関わるのは、ニコル・ボーラスがラヴニカを舞台に全多元宇宙のプレインズウォーカーの灯を奪う儀式を実行しようとした「灯争大戦」です。この未曽有の危機に対し、多くのプレインズウォーカーたちがラヴニカに集結し、次元の防衛にあたりました。ラールはディミーア・ギルドの一員として、そしてラヴニカに住む者として、この戦いに参加します。
彼はジェイス・ベレレンや他のゲートウォッチの面々、そしてラヴニカの他のギルド員たちと協力して、ボーラスの侵攻に対抗しました。この戦いでは、彼の炎の魔術と戦闘スキルが遺憾なく発揮されました。特に、ラールは戦いの最中にジェイスと協力する場面が多く見られ、かつての複雑な関係性が新たな局面を迎えたことが示唆されました。ラールの忠誠はあくまでディミーア・ギルドとラヴニカにありましたが、多元宇宙の危機に対してはプレインズウォーカーとしての責務も果たそうとしました。この戦いの様子は、『灯争大戦』のセットや小説で詳細に描かれています。
ファイレクシアによる完成化
灯争大戦が終結し、多元宇宙に束の間の平穏が訪れた後、新たな脅威である新ファイレクシアが本格的にその侵攻を開始します。機械生命体の次元である新ファイレクシアは、多元宇宙の様々な次元へ影響を広げ、多くの生命や物質を「完成化」することで自らの勢力に取り込みました。
「機械兵団の進軍」の物語において、新ファイレクシアはラヴニカを含む多くの次元へ同時に侵攻します。この時、ラール・ザレックはラヴニカの防衛にあたっていましたが、ファイレクシアの手に落ち、完成化されてしまいます。完成化とは、有機生命体が機械と融合し、ファイレクシアの一部となる恐ろしいプロセスです。これにより、ラールは肉体的にも精神的にも変容し、かつての姿とは全く異なる、新ファイレクシアに忠誠を誓う存在となりました。
《完成化した賢者、ラール》などのカードアートやフレイバーテキストは、彼がどのように完成化され、ファイレクシアの尖兵となったのかを視覚的に示しています。彼の炎の魔術は油によって強化され、その能力はさらに危険なものとなりました。
その後の影響と結び
ラール・ザレックの完成化は、ラヴニカの住人たち、特にディミーア・ギルドにとって大きな衝撃となりました。忠実な腹心であり強力な戦士であったラールが敵の手に落ちたことは、ラヴニカの防衛体制と士気に暗い影を落としました。彼の完成化された姿は、新ファイレクシアの脅威がラヴニカにも深く根を下ろしていることを象徴しています。
ラール・ザレックの軌跡は、ケルドの戦士としての荒々しさ、ラヴニカのディミーア・ギルドにおける知的な暗躍、灯争大戦でのラヴニカへの忠誠、そして最終的なファイレクシア化という、波乱に満ちた物語です。彼の物語は、多元宇宙の大きな出来事の中で一人のプレインズウォーカーがどのように翻弄され、変容していくかを示す一例であり、MTG世界の複雑なストーリーを理解する上で重要なピースの一つと言えるでしょう。完成化されたラールが今後どのように物語に関わってくるのか、その動向は引き続き注目されます。