ミラディンの傷跡:ファイレクシアの再臨とプレインズウォーカーたちの介入
導入:平和な次元に忍び寄る悪意
マジック:ザ・ギャザリングの世界において、最も根深い脅威の一つであるファイレクシア。彼らはかつてヤーグルとクロウヴァクスによって滅ぼされたかのように見えましたが、次元を渡る金属世界ミラディンにおいて、その恐るべき機械生命体が再び頭角を現します。この記事では、「ミラディンの傷跡」ブロックで描かれたファイレクシアの再臨と、その危機に立ち向かうためにミラディンへ降り立ったプレインズウォーカーたちの行動、そして次元の命運がどのように変化していったかを詳細に追っていきます。
ミラディンの起源と潜む脅威
ミラディン次元は、時の終わりから戻ったプレインズウォーカー、カーンによって創造されました。彼は自身の「レガシー」の一部であったゴーレム、カローナの心臓を核としてこの次元を形作りました。しかし、カーンが次元を創造する際に携行していた、かつてのファイレクシアの親玉、ヨーグモスが製造した「機械油」(Glistening Oil)の一部が、次元の核に取り込まれてしまいました。この機械油が次元内部でゆっくりと増殖し、ミラディンの生命や金属を徐々にファイレクシア化させていくことになります。
当初、ミラディンはその特異な環境とそこに住む種族たちによって独特な文明を築いていました。しかし、次元の中心部に位置する核、メタヴォールトでは、機械油による変容が静かに進行していました。この変容はやがて次元全体に影響を及ぼし始め、金属生命体や他の生物たちが病的な機械化の兆候を見せるようになります。
ファイレクシアの台頭とプレインズウォーカーの覚知
「ミラディンの傷跡」ブロックの開始時点では、ミラディン次元の住民はすでに「感染」と呼ばれる現象に脅かされていました。これは機械油によって引き起こされる変容であり、有機物であろうと無機物であろうと、ファイレクシアの機械生命体へと変化させてしまう恐るべき能力でした。
この次元の異変を最初に強く感知したのは、次元の創造主であるカーン自身でした。彼は自身の不調と次元の病が関連していることを悟り、ミラディンへ帰還することを試みます。しかし、彼は既に機械油に深く侵されており、理性と記憶が失われつつありました。
同時期に、若いプレインズウォーカーであるジェイス・ベレレンが、自身の精神的な探求の一環としてミラディンを訪れます。彼は次元の異常な状況、特にマナの流れの乱れや生命の歪みを感じ取り、調査を開始します。
そして、かつてファイレクシアに故郷の次元を滅ぼされた過去を持つプレインズウォーカー、エルズペス・ティレルもまた、ミラディンを訪れていました。彼女はこの次元の平和な雰囲気に惹かれ、新たな故郷としてミラディンを選ぼうとしていましたが、次元に広がり始めた感染の兆候を見て、自身の忌まわしい過去の記憶とファイレクシアの再来を強く予感します。
ミラディン包囲戦と新たなるファイレクシア
ファイレクシアの感染は急速にミラディン全土に拡大し、次元は二つの勢力に分断されます。一つは、ミラディン固有の生命体や文明が結束した「ミラディン軍(ミラディン陣営)」、もう一つは機械油によって変容し、新たなファイレクシアの完成を目指す「ファイレクシア軍(ファイレクシア陣営)」です。
「ミラディン包囲戦」において、この二つの勢力は次元の支配を巡る激しい戦いを繰り広げます。ミラディン軍は、レジスタンスとして抵抗を続け、次元をファイレクシアの支配から守ろうと奮闘します。一方、ファイレクシア軍は、五人の「大祖師」と呼ばれる新たな指導者(白のヴォリンクレックス、青のジン=ギタクシアス、黒のシェオルドレッド、赤のウラブラスク、緑のベレドロス・ウェルダー)の下で組織化され、次元全土の「完成」(Compleation - ファイレクシア化)を目指します。
この戦いの中で、カーンはメタヴォールトの中心で囚われの身となり、自身の機械油の感染によって苦しんでいました。エルズペスはミラディン軍の戦士として、ファイレクシアと直接戦います。ジェイスは次元の謎を解き明かそうと行動し、カーンの状態を知ることとなります。彼らは次元の核にいるカーンを救出し、ファイレディアンの脅威を食い止めるために協力します。
最終的に、「新たなるファイレクシア」において、戦いはファイレクシア陣営の優勢に進み、ミラディン軍は劣勢に立たされます。カーンはジェイスとエルズペスによって一時的に救出されますが、次元全体のファイレクシア化を止めることは叶いませんでした。エルズペスは故郷を再びファイレクシアに脅かされる絶望に直面し、ジェイスは混乱の中、ミラディンを後にします。カーンは自身の責任を感じつつも、機械油の進行によって完全に「完成」する前にミラディンを離れることになります。
結び:新ファイレクシアの誕生とその後の影響
「ミラディンの傷跡」ブロックの結末は、ミラディン次元が完全にファイレクシアの支配下に置かれ、「新ファイレクシア」として変貌するという衝撃的なものでした。ミラディン固有の生命体のほとんどは駆逐されるか、あるいはファイレクシア化されてしまい、かつての輝く金属世界は、グロテスクな機械と肉の融合体であふれる暗黒の次元へと変貌しました。
この出来事は、マジック:ザ・ギャザリングのストーリーにおける極めて重要な転換点となりました。ファイレクシアという古き脅威が完全に復活し、次元規模の新たな勢力として確立されたのです。カーンは自身の創造した次元がこのような結末を迎えたことに深い苦悩を抱え、以降、ファイレクシアの打倒を生涯の目標とします。エルズペスは再びファイレクシアの脅威に直面したことで、自身の過去と向き合い、彼らへの復讐心を燃やすことになります。ジェイスは、ファイレクシアの恐ろしさを目の当たりにし、その後の多様な出来事に関与していく中で、その知識と経験を活かしていくことになります。
新ファイレクシアの誕生は、その後の多くのストーリーライン、特に「ファイレクシア:完全なる統一」における多次元にわたるファイレクシアの侵攻へと直接繋がっていきます。ミラディンの傷跡の物語は、プレインズウォーカーたちの個人的な苦難と成長、そして多次元宇宙全体を脅かす新たな敵の台頭を明確に描いた重要な出来事として、その後の物語に深い影響を与え続けています。