機械兵団の進軍:新ファイレクシアによる多元宇宙侵攻とその終焉
機械兵団の進軍とは
「機械兵団の進軍」(March of the Machine)は、マジック:ザ・ギャザリング(MTG)の物語における極めて重要な出来事の一つです。この出来事において、悪名高き新ファイレクシアは、その頂点である法務官エリシュ・ノーンの指導のもと、完成化されたプレインズウォーカーたちが構築した「多元宇宙橋」を用いて、故郷のミラディン次元(現:新ファイレクシア)を超え、多元宇宙のほぼ全ての次元への同時侵攻を開始しました。これはMTGの歴史上、次元を股にかけた単一の勢力によるこれほど大規模かつ組織的な侵攻は前例がなく、多元宇宙全体の存亡をかけた最大の危機となりました。
侵攻の背景
新ファイレクシアは、「ミラディンの傷跡」ブロックでミラディン次元を征服し、その名を新ファイレクシアと改めた後も、着実に勢力を拡大していました。特に、白の法務官エリシュ・ノーンは他の法務官を排除・統合することで支配を盤石にし、「全ての存在を一つに、ファイレクシアの意志の下に」という最終目標の達成に向けて動き出しました。
一方、灯争大戦でニコル・ボーラスの脅威を退けた多元宇宙でしたが、多くのプレインズウォーカーが灯を失ったり、傷ついたりしており、以前ほどの活発な交流や相互援助が難しい状況にありました。また、ファイレクシアは密かに工作員を各地に送り込み、次元の脆弱性を探ったり、完成化の種を蒔いたりしていました。
決定的な転換点は、プレインズウォーカーであるカーン・シルバーゴイルが拘束され、彼の灯の力を利用して完成化されたプレインズウォーカーたち(アトラクサ、ボーラスの末裔ニヴ=ミゼット、ジェイス、ヴラスカ、ナヒリ、タミヨウなど)によって、次元間を移動するための永続的な通路である「多元宇宙橋」が建設されたことでした。これにより、新ファイレクシアは次元を瞬時に移動する手段を手に入れ、一斉攻撃の準備を完了しました。
多元宇宙への進軍
エリシュ・ノーンは、完成化されたプレインズウォーカーたちと大量の機械兵団を、「多元宇宙橋」を通じて多元宇宙の主要な次元へと送り出しました。ラヴニカ次元のアゾリウス本部に設置された多元宇宙橋のハブは、侵攻の主要拠点となりました。
侵攻を受けた次元は多岐にわたります。 * ラヴニカ: 多元宇宙橋のハブが置かれたため、激しい戦場となりました。ギルドは連携してファイレクシアに抵抗しましたが、甚大な被害を受けました。 * ドミナリア: 古い歴史を持つこの次元も侵攻を受け、ファイレクシアとの因縁の対決が繰り広げられました。トレイリアやファイレクシアの穴(ヤヴィマヤ)などが戦場となりました。 * エルドレイン: 童話のような次元は、完成化されたケンリスの帰還と機械兵団の侵攻に直面しました。 * イクサラン: 太陽帝国と末裔が協力して抵抗しました。 * イニストラード: 恐怖の次元もファイレクシアの脅威にさらされました。 * ゼンディカー: エルドラージの脅威を乗り越えたばかりの次元も攻撃を受けました。 * カラデシュ: 発明の次元も機械の脅威に立ち向かいました。 * アモンケット: 砂漠の次元も侵攻されました。 * カミガワ: サイバーパンク化した次元は、技術力をもって抵抗しました。 * ゼンディカー: エルドラージを撃退したばかりの次元も再び危機に瀕しました。
これらの次元では、それぞれの住人や、支援に駆けつけた非完成化のプレインズウォーカーたちが必死の抵抗を試みました。
戦いの趨勢と結末
多元宇宙全体で繰り広げられた絶望的な戦いの中、反撃の機会を探る者たちがいました。主要な抵抗勢力は、ラヴニカのギルド、ドミナリア連合、そして集結したプレインズウォーカーたちでした。彼らの目標は、新ファイレクシアの心臓部である新ファイレクシア次元への逆侵攻でした。
集結したプレインズウォーカーや英雄たちは、ナヒリ、ジェイス、ヴラスカといった完成化された仲間たちとの悲劇的な対決を乗り越え、エリシュ・ノーンが支配する真実の領域へと進みました。この最終決戦において、ギデオン・ジュラの元武器であった試練、そしてアクロスの太陽であったヘリオッドの介入、そしてカーン・シルバーゴイルの決死の行動などが重なり、エリシュ・ノーンは遂に討たれました。
エリシュ・ノーンの死は、新ファイレクシアの統一された指揮系統を崩壊させ、多元宇宙全体に広がっていた機械兵団の動きを鈍化させました。また、エリシュ・ノーンが次元の心臓部に植え付けていた「次元の遍在」の概念が失われたことで、次元を跨いだ侵攻能力は大きく後退しました。残った法務官たちや各次元の機械兵団は壊滅的な打撃を受け、新ファイレクシアの脅威は一時的に、あるいは決定的に終焉を迎えました。
戦いの影響
「機械兵団の進軍」は、MTGの物語に計り知れない影響を与えました。
- プレインズウォーカーの灯の喪失: 多元宇宙橋の崩壊や、戦いの中で発生した次元の力の奔流の影響により、多くのプレインズウォーカーがその灯を失い、単なる強力な魔法使いや戦士へと戻りました。これにより、物語におけるプレインズウォーカーの役割とパワーレベルは大きく変化しました。
- 多元宇宙の傷跡: 多くの次元がファイレクシアの侵攻によって甚大な物理的・生態学的被害を受けました。また、完成化された住人や失われた命の悲劇は、各次元の未来に暗い影を落としました。
- 新ファイレクシアの終焉(あるいは後退): エリシュ・ノーンの死により、新ファイレクシアの統一された脅威は去りました。しかし、各地に残ったファイレクシアの残党や、他の法務官の行方など、今後の物語の火種は残されています。
- 新たな物語の幕開け: 灯を失ったプレインズウォーカーたちが、それぞれの故郷や新しい居場所で、次元内の問題に立ち向かう物語が始まりました。多元宇宙規模の脅威から、各次元に根差した物語へと焦点が移りつつあります。
「機械兵団の進軍」は、長年続くファイレクシアの脅威に一つの区切りをつけ、同時に物語の基盤を大きく揺るがす出来事となりました。これは、MTGの物語が新たな章に入ったことを明確に示す出来事と言えるでしょう。この戦いを経て、多元宇宙は元には戻らない変容を遂げ、そこに生きる者たちの物語は新たな局面を迎えています。