銀のゴーレム、カーンの軌跡:創造からニューファイレクシアの誕生、そして希望へ
はじめに
マジック:ザ・ギャザリングの物語において、プレインズウォーカーは多元宇宙を股にかける超常的な存在として描かれます。しかし、その中でも特に異彩を放つのが、銀のゴーレムとして創造され、後にプレインズウォーカーとなったカーンです。彼の存在は、ウルザとファイレクシアの千年戦争の遺産であり、ミラディン次元の創造者、そしてニューファイレクシアの誕生という、多元宇宙に深い影響を与える出来事の中心に位置しています。この記事では、カーンの創造から彼の複雑な軌跡をたどり、MTG世界におけるその重要性について解説します。
銀のゴーレム、カーンの誕生とその目的
カーンは、ドミナリア次元の偉大な人工物技師であるウルザによって、時間移動の実験のために創造されました。彼は、金属生命体としての特性に加え、感情や意思を持つように設計されており、特に人間の感情である「共感」の概念を理解できるように訓練されました。ウルザの最終的な目的は、ウルザ本人が持つと強すぎるプレインズウォークの力(正確には「時のらせん」以前の旧世代プレインズウォーカーの能力)をカーンに担わせ、時間移動の特異点となる「時の金庫」を起動することでした。
カーンは時間移動の実験に参加し、ドミナリア次元のザルファー王国で幼少期を過ごしたテフェリーなど、後に強力な時間魔術師となる人物との関わりも持ちました。また、ウルザがファイレクシアとの戦いのために構築した「レガシー武器」の一部としても機能しました。レガシーの中核をなす「ウェザーライト号」の動力源である「ウェザーライト・エンジン」と融合していた時期もあります。
プレインズウォーカーへの覚醒
カーンがプレインズウォーカーの灯に目覚めたのは、ウルザとファイレクシアの千年戦争の終結、そしてドミナリアを襲った「ファイレクシア侵攻」の最中でした。この戦いで、ウルザは自身のプレインズウォークの力を封じた「セラの魂石」をカーンに託しました。ファイレクシアの本拠地である次元、フィオーラで、ファイレクシアの主、ヨーグモスとの最終決戦が行われる中、カーンはセラの魂石を取り込みます。これにより、彼は旧世代の強力なプレインズウォーカーとして覚醒し、次元を渡る能力を得ました。この出来事は、ウェザーライト・サーガのクライマックスであり、ドミナリアの歴史における大きな転換点の一つです。
ミラディンの創造と影
プレインズウォーカーとなったカーンは、自身の精神的な苦悩や、過去の出来事(特にセラの魂石を取り込んだ経緯)から逃れるかのように、新しい次元を創造しようと考えました。彼は次元を放浪し、様々な人工物を集め、それらを核として「ミラディン」次元を創造しました。ミラディンは金属で構成された独特な環境を持つ次元であり、カーンはこの次元を「自分を責めない場所」と捉え、自身が持ち込んだ金属の生命体に新たな命を吹き込み、様々な種族を誕生させました。
しかし、ミラディン創造には悲劇的な影が潜んでいました。カーンがミラディンに持ち込んだ人工物の中に、ファイレクシア侵攻の際に自身が浴びた「ファイレクシアの油」の痕跡が含まれていたのです。旧世代プレインズウォーカーである彼は、この汚染に対してある程度の耐性を持っていましたが、創造したばかりの次元は無防備でした。微量な油は、長い時間をかけてミラディンに根付き、その金属環境を利用して増殖を開始しました。カーン自身は汚染に気づかず、やがて汚染が進行したことで精神的な衰弱が進み、次元を離れることになります。
ニューファイレクシアの誕生とカーンの幽閉
カーンがミラディンを離れた後、ファイレクシアの油による汚染は急速に進行しました。ミラディンの生命体は次々とファイレクシア化され、次元そのものが変容していきました。これは「ミラディンの傷跡」ブロックで描かれた出来事であり、この結果、ミラディンは元の姿を失い、「ニューファイレクシア」へと変貌を遂げました。
カーンは自身が引き起こしたこの悲劇を知り、ミラディンに戻りますが、既に次元はファイレクシアの完全な支配下にありました。彼はファイレクシアの勢力に捕らえられ、次元の中心にある炉の部屋に幽閉されてしまいます。この時、カーン自身もファイレクシア化寸前の状態にあり、精神的に極めて不安定な状態でした。
解放とファイレクシアとの果てなき戦い
カーンの幽閉の知らせを受けたプレインズウォーカーたち、特にエルズペス・ティレルとコスは、ミラディンの抵抗勢力である「ミラディン同盟」と共にニューファイレクシアへの侵攻を試みます(「ミラディン包囲戦」)。彼らは激しい戦いの末、炉の部屋に到達し、カーンをファイレクシアの支配から解放することに成功しました。
解放されたカーンは、自身が引き起こした悲劇への責任を感じ、ファイレクシアの脅威を多元宇宙から根絶することを新たな使命とします。彼はその後、様々な次元を訪れ、ファイレクシアに関する情報収集や、潜在的な脅威への対処を行います。灯争大戦では、ラヴニカの戦いに参戦し、ニコル・ボーラスに対抗するプレインズウォーカー連合の一員として戦いました。
そして、「機械兵団の進軍」では、ニューファイレクシアが多元宇宙全体への侵攻を開始した際、カーンはファイレクシア打倒の中心的人物として活躍します。彼はファイレクシアの指導者の一人であるエリシュ・ノーンと対峙し、多元宇宙の存続をかけた最終決戦に挑みました。この戦いでは、ドミナリアで開発された対ファイレクシア兵器である「スランの炉」や、時間魔術を駆使したテフェリーとの連携も重要な役割を果たしました。
結び
銀のゴーレム、カーンの物語は、ウルザの遺産、時間旅行、次元創造の希望と悲劇、そしてファイレクシアというMTG世界最大の脅威との戦いという、多くの要素が複雑に絡み合った壮大な軌跡です。彼は創造された存在でありながら、プレインズウォーカーとしての責任と、自身の過ちによって引き起こされた悲劇への苦悩を背負い、常に多元宇宙の平和のために戦い続けています。カーンの軌跡は、過去の出来事が現在の物語にどう繋がっているかを示す好例であり、今後も彼の存在がMTG世界のストーリーにおいて重要な役割を果たすことは間違いないでしょう。彼の物語は、ウルザの物語(兄弟戦争)、ウェザーライト・サーガ、時のらせんブロック、ミラディンの傷跡ブロック、灯争大戦、機械兵団の進軍など、多くのセットや小説で描かれており、彼のカードやアートワークにもその旅路が刻まれています。