イニストラードの守護者アヴァシンの悲劇:ソリン・マルコフが直面した創造物の狂気とその結末
イニストラードの守護者、アヴァシンの創造とその役割
プレインズウォーカーであるソリン・マルコフは、自身の故郷である次元、イニストラードを深く愛していました。しかし、この次元は常に悪魔や異形といった存在の脅威に晒されており、さらに主要な居住者である人間とヴァンパイアの関係が不安定でした。ヴァンパイアが無制限に人間を捕食することで次元のバランスが崩壊することを危惧したソリンは、次元を守護し、人間とヴァンパイアの均衡を保つ存在として、強大な天使、アヴァシンを創造しました。
アヴァシンはソリンの望み通り、イニストラードの守護者として絶大な力を発揮しました。彼女の存在は人間たちに希望を与え、彼らを守るための「アヴァシン教会」が設立されました。アヴァシンとその天使たちは次元中の悪魔やグールといった脅威と戦い、イニストラードに一定の秩序と安全をもたらしました。これは『イニストラード』ブロックの背景となる出来事です。
獄庫への封印と帰還
悪魔リリアナ・ヴェスとの契約を持つグリーフは、イニストラードのバランスを崩すためにアヴァシンを標的としました。悪魔たちの策略により、アヴァシンは「獄庫(Helvault)」と呼ばれる銀の非物質的な物体に自身を封印することを選ばざるを得なくなりました。これは悪魔たちを道連れにするための行動でしたが、結果としてイニストラードから守護者が姿を消し、次元は再び混乱に陥ります。悪魔や異形の活動が活発化し、人間は追い詰められました。
ソリンは獄庫にアヴァシンが封じられたことを知らず、故郷の異変を感じてイニストラードへ戻ります。獄庫の存在とその影響を知った彼は、リリアナやジェイス・ベレレンの助けを借りて獄庫を破壊します。これによりアヴァシンは獄庫に封じられていた悪魔たちと共に解放され、『アヴァシンの帰還』で描かれたように、イニストラードに再び戻りました。アヴァシンの帰還により、次元は一時的に均衡を取り戻しました。
アヴァシンの狂気と「正気からの剥離」
アヴァシンの帰還後、しばらくは平穏が保たれましたが、『イニストラードを覆う影』ブロックで恐ろしい異変が起こり始めます。アヴァシンを含む天使たちが奇妙な言動を取り始め、次第に狂気に陥っていったのです。アヴァシンはイニストラードから「汚れたもの」を排除すると宣言し、その対象は悪魔やグールだけでなく、無辜の人間や他のクリーチャーにまで及びました。彼女はかつての守護者ではなく、次元そのものを浄化しようとする破壊者と化しました。この現象は「正気からの剥離(The Madness)」と呼ばれ、次元全体に影響を及ぼしました。
この狂気の原因は、次元の深部に潜んでいたエルドラージのタイタン、コジレックとウラモグの存在でした。彼らが次元の精神構造に干渉したことが、アヴァシンや他の多くの存在の精神に歪みをもたらしていたのです。
ソリンの苦渋の決断とアヴァシンの最期
自身の創造物であるアヴァシンの狂気と、それがイニストラードにもたらす破滅を知ったソリンは、事態を収拾するためにイニストラードへ戻ります。彼はアヴァシンを正気に戻そうと試みますが、彼女の狂気は深まる一方でした。アヴァシンはもはや次元の守護者ではなく、その存在自体がイニストラードを危険に晒す要因となっていました。
最終的に、ソリンは苦渋の選択を迫られます。自身の創造物であり、深く愛していたアヴァシンを、自らの手で消滅させることでした。次元を守るため、そしてアヴァシン自身の苦しみから解放するため、ソリンは魂の鎖(Soulbond)を用いてアヴァシンを消滅させました。この悲劇的な出来事は『異界月』のクライマックスとして描かれました。アヴァシンの消滅は、イニストラード次元の守護者の喪失を意味し、次元のバランスは大きく崩れ去りました。
その後の影響
アヴァシンの消滅はイニストラード次元に計り知れない影響を与えました。主要な守護者を失ったことで、悪魔や異形の脅威が再び増大し、次元はより不安定な状態に陥りました。また、この出来事はソリン自身の精神にも深い傷を残し、彼の物語の重要な転換点となりました。
さらに、ソリンがアヴァシンを消滅させたことは、同じくイニストラード出身のプレインズウォーカーであるナヒリとの長きにわたる確執を決定的に深める要因の一つとなります。ナヒリはかつてエルドラージをイニストラードに封じ込める際にソリンに協力を求めましたが、ソリンはエルドラージの脅威よりもアヴァシンの狂気と次元の状況を優先し、結果としてナヒリを失望させていました。アヴァシンの消滅は、ナヒリのソリンに対する不信感と怒りを増幅させることになったのです。
アヴァシンという存在、そしてその悲劇的な最期は、イニストラード次元の物語において極めて重要な出来事であり、プレインズウォーカー、特にソリン・マルコフの軌跡を追う上で避けては通れない物語として記憶されています。