プレインズウォーカー年代記

アショクの軌跡:悪夢を操るプレインズウォーカーの暗躍

Tags: アショク, プレインズウォーカー, テーロス, ファイレクシア, 物語

導入:悪夢を具現化する謎多き存在、アショク

マジック:ザ・ギャザリング(MTG)の多元宇宙には、多くのプレインズウォーカーが存在しますが、その中でも特に異質で謎に包まれているのが、悪夢を操るアショクです。アショクは性別も特定の次元への帰属も不明であり、常に仮面で顔を覆っています。その能力は、他者の悪夢を呼び起こし、具現化することに特化しており、恐怖と不安が渦巻く場所に現れては、その能力を磨き上げてきました。この存在は、多元宇宙の出来事に直接的に介入するというよりも、陰から特定の目的を持って影響を与えることが多い特徴を持っています。

本記事では、アショクが多元宇宙でどのようにその悪夢の力を振るい、物語にどのような足跡を残してきたのかを、時系列を追って詳細に解説します。

テーロスでの暗躍と悪夢の具現化

アショクが初めて公式な物語に登場したのは、2013年発売のセット『テーロス』ブロックにおいてでした。この次元は、ギリシャ神話をモチーフにした神々と英雄が住まう世界です。アショクはテーロスにおいて、冥府の神エレボスと取引を行い、生者が見る悪夢を具現化するという実験を繰り返していました。テーロスの人々が悪夢に苦しめられることで、エレボスはその力を増すとされ、アショクもまた、その過程で自身の能力を深く理解し、洗練させていったのです。

アショクの能力は、テーロス次元の「ニクス」と呼ばれる夜空の次元との関連が示唆されています。ニクスはテーロスにおいて、神々や神話の生き物の本質を形成する夢や概念の領域であり、アショクはこのニクスから悪夢の存在を引き出し、現実世界に顕現させることができました。

この時期のアショクを象徴するカードとして、『テーロス』に収録されたプレインズウォーカーカード《悪夢の番人、アショク》が挙げられます。このカードは、相手の手札やライブラリーからカードを追放し、そこからクリーチャーを生み出すという能力を持ち、悪夢が具現化される様を表していました。

エルズペス・ティレルとの因縁と悪夢の侵食

アショクは、2020年発売のセット『テーロス還魂記』で再びテーロスに姿を現しました。この物語では、冥府に落ちたプレインズウォーカー、エルズペス・ティレルが冥府からの脱出を試みる様子が描かれています。アショクはエルズペスの精神に入り込み、彼女が抱える過去のトラウマや恐怖を悪夢として具現化させ、エルズペスを精神的に追い詰めました。これは、アショクが自身の能力を研ぎ澄ますための実験の一環であり、彼(彼女)は他者の恐怖や苦しみから学ぶことを喜びとしているかのように見えました。

この出来事を通して、アショクは恐怖を介して世界の構造を理解しようとする姿勢を見せています。また、悪夢を操るだけでなく、他者の精神に深く干渉する能力がより明確になりました。この時期のアショクは、『テーロス還魂記』に収録された《悪夢の詩人、アショク》として描かれています。

ファイレクシアとの繋がりと悪夢の探求

多元宇宙の物語がファイレクシアの脅威へと向かう中で、アショクもまたこの新たな恐怖の対象に興味を示しました。2022年発売のセット『ファイレクシア:完全なる統一』の物語では、アショクはファイレクシアの次元、新ファイレクシアの内部に潜入し、ファイレクシア自身が抱える悪夢や、完成化されたプレインズウォーカーたちの精神にある恐怖を調査していました。アショクは、ファイレクシアの「完成化」という概念を、生命が持つ恐怖を克服し、あるいは新たな恐怖を生み出すプロセスとして捉え、自らの悪夢の探求に応用しようとしたのです。

特に、完成化された天使アトラクサが抱く「闇の幻視」という悪夢に興味を示し、それを解析しようと試みました。アショクにとってファイレクシアは、究極の恐怖と悪夢を学ぶための「教師」や「被験体」のような存在であり、自身も完成化されることを恐れるどころか、それを新たな研究材料として捉えているかのような描写が見られます。この時のアショクは、『ファイレクシア:完全なる統一』に収録された《悪夢の執政官、アショク》として登場しました。

機械兵団の進軍における役割とその後

2023年発売のセット『機械兵団の進軍』において、新ファイレクシアが多元宇宙全体への侵攻を開始した際も、アショクは自身の目的を遂行していました。多くのプレインズウォーカーがファイレクシアとの直接的な戦闘に巻き込まれる中、アショクは侵攻された各次元を渡り歩き、その地で人々が経験する恐怖や絶望、そしてファイレクシアが生み出す悪夢を淡々と収集し続けていました。

『機械兵団の進軍』の結末で、「大いなる修復」に匹敵する次元の現象により、多くのプレインズウォーカーがその灯を失い、あるいは変質させられる中、アショクは能力を維持している数少ないプレインズウォーカーの一人です。これは、アショクの存在が、単なる「灯」の力に依存するだけでなく、精神や概念に深く根差していることを示唆しています。

結び:永遠の悪夢を追求する存在

アショクの物語は、特定の陣営に属さず、善悪の概念を超越し、ひたすらに恐怖と悪夢を追求するその特異な性質を浮き彫りにしています。テーロスでの能力の開花から始まり、エルズペスの精神への干渉、そしてファイレクシアという究極の恐怖への探求に至るまで、アショクの軌跡は常に、生命が抱く暗い感情の深淵を掘り下げる旅でした。

その正体や真の目的は依然として謎に包まれていますが、アショクは多元宇宙が新たな脅威に直面するたびに、その暗部に現れ、独自の視点から物語に影響を与える存在として、今後も重要な役割を担う可能性を秘めています。恐怖と悪夢が尽きない限り、アショクの探求もまた終わることはないでしょう。